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鄙びた温泉街『俵山温泉』でホタル鑑賞。6月の週末は「ホタルバス」で満天のホタルを楽しむ

小規模な旅館が軒を連ねる長門の「俵山温泉」はとてもフォトジェニック

以前長門湯本温泉について紹介したことがありましたが、今回はそこからさらに奥山に入ったところにある「俵山温泉(たわらやまおんせん)」を紹介したいと思います。

大谷山荘など比較的大型の旅館がそろっている長門湯本温泉に対して、俵山温泉は民宿のような小さな旅館が道沿いに連なっている小規模な温泉街で、”鄙びた(ひなびた)”という表現がぴったりです。

俵山温泉というと旅館の看板がいくつも映った写真がよく出てきますが、本当にフォトジェニックな場所です。

俵山温泉は約1100年前の平安初期の延喜16年(916年)に発見された古い温泉です。

江戸時代には長州藩毛利家の直営の湯治場となりました。

この温泉を理解するには赤間関(あかまがせき)街道の存在を考える必要があります。

赤間関とは今でいう下関のことです。

下関市の明治時代の前の名称は赤間関市でした。

このことはおそらく赤間神宮を知っている下関市民もあまり知らないのではないでしょうか。

赤間関は”赤馬関”とも書くことがあったために、略して馬関(ばかん)と呼ばれることもありました。

そういうことで下関駅の前の名称は馬関駅でした。

萩が長州藩の本拠地で政治の中心であったのに対し、今でもそうですが長府藩の赤間関は経済の中心でした。

この二つの拠点をつなぐ街道が赤間関街道であり、北の北道筋と南の中道筋の二筋ありました。

北道筋は三隅、湯本、俵山、田部を通るルートで、俵山温泉はこの街道筋にあります。

これに対し絵堂、秋吉、美祢を通るルートが中道筋となっていて、こちらのほうが最短ルートになっています。

赤間関街道北道筋は今でも眼鏡橋として有名な三見橋を通ります。

さてそんな歴史的な街道沿いにある俵山ですが今でも下関とのルートがサンデン交通バスによって確保されています。

このサンデンバス、下関駅から仙崎の大泊のルートを走る仙崎線準急便と呼ばれるバスなのですが、下関と俵山を2時間程度で結んでいます。

なかなかこれだけの長いルートの路線バスというのも少ないと思いますがすごいですね。一度乗ってみたいです。

白猿伝説由来の開湯

白猿薬師寺

1000年以上前に発見された俵山温泉ですが、温泉の開湯には「白猿伝説」というものがあります。

古い昔、俵山は民家もまばらな深い山の中にありました。

或日、身ごもった一匹の猿が猟師に撃たれ傷を負い山に逃げ帰りました。

数日後、真っ白な猿が現れ湧き出るお湯で傷を癒しているのを猟師が見ているうち、突然紫の光(瑠璃光)をはなち、真っ直ぐ昇天されたそうです。

猟師は、その白サルを薬師如来の化身とさとりその後、猟師をやめ、開かれた温泉湯治場の仕事に従事されたといわれています。

それ以来、俵山温泉の守り本尊としてお祀りされるようになったのが白猿薬師瑠璃光如来様です。

岩国には白蛇伝説、島根は因幡(いなば)の白兎とおそらく“白”というのには中国地方に共通した信仰があるのでしょう。

白猿薬師寺は階段を上って少し小高い丘の上にあります。

薬師寺からは俵山温泉街がよく見えるのでお勧めです。

俵山温泉には今でも猿がよくでるそうですが、イノシシ、シカなどもでるそうです。

薬師寺には観音様が祀られていて「知地観音」といいます。

この観音様にも言い伝えがあります。

昔、ここには小さな池があって温泉と清水の混じった液が流れていた。

この液で乳首を洗うと乳がよく出て、目を洗うと視力が回復した。

(略)

大正の始めごろ若い母親がそのことを聞いて俵山に来、入湯しながらこの池から流れる液で乳を洗うと、乳がしたたりでるようになった。

おもゆで育っていた乳児はたっぷりと乳を与えられ健康に育ってその母親は子を育てる喜びを味わうことができた。

母親はここにおられるという神を乳観音として石佛をつくって池のそばに安置した。

観音様は本堂の中にあると思われたので今回は遠慮しました。

代わりに石仏が並んでいました。

このお寺の横にも旅館がいくつかあり、少し小高いところに宿泊したい場合はこちらもおすすめです。

還元力が強く抗酸化作用がある俵山温泉

白猿の湯

毛利家直営の湯治場になったように、俵山温泉は昔から名湯として知られてきました。

俵山温泉は基本外湯で形成されていて、町の湯、川の湯、白猿(前は正)の湯の3つの外湯があります。

川の湯

町の湯はリウマチや神経痛、川の湯は皮膚病ややけど、正の湯は胃腸病に効能があるとされてきました。

温泉教授と呼ばれるくらい温泉に関する数々の著作がある松田忠徳さんは俵山温泉を温泉番付で西の横綱に挙げているくらいです(東は山形の肘折温泉)。

今回は町の湯と白猿の湯に入りました。

町の湯

どちらもほどよく硫黄のにおいがして、お湯はぬるぬるとしてなめらかなで肌に良いとされる理由がわかりました。

俵山温泉のお湯には水素が豊富に含まれているため活性酸素を中和して除去してくれる働きがあり、”美肌の名湯”として知られているのです。

地元の人が普段使いするのが町の湯で、狭いながらもお湯の質が抜群によいためのぼせやすいぐらいだといいます。

こちらのお湯は飲料水としても楽しめるので、訪れた際は湯あがりに一杯してほしいと思います。

もう一つはより大規模で近代的な白猿の湯です。

1Fはおみやげやさんになっていて地元の名産なども買い物できます。

2Fには温泉のほかにレストランがあり食事もできます。

今回はとんかつ定食とお勧めになっていた地元の豆腐をいただくことにしました。

温泉は広くて開放的で露天風呂もありますし、家族連れでも問題なく楽しめます。

広大な庭が楽しめる老舗「泉屋旅館」

今回宿泊したのは泉屋旅館さんです。

突然予約して泊まりに行ったので残念ながら夕食にはありつけませんでしたが、泉屋旅館の風情を十分に楽しむことができました。

俵山温泉は内湯がなく外湯が中心なので、旅館から浴衣を着て外湯に行きます。

宿泊者は100円引きになりますのでお得ですよ。

泉屋は俵山温泉のなかで比較的大きな旅館で、広い敷地に素敵な庭があります。

ただ旅館のご主人の話によると庭師の高齢化がすすみ、庭の維持が年々難しくなっているとのことでした。

ほたるバスが運行するこの時期は夜の風情を堪能

私が訪れた前日はほたる祭りがあったのですが、6月初旬のこの時期ほたるバスが運行されています。

ほたるは夜の7時から9時、12時ごろ、そして3時ごろと3回にわたって頻繁に光る時間帯があるそうです。

ほたるバスは基本8時から9時まで運行されていて、ほたるバスの照明看板が点灯する場所から乗客を乗せて温泉街とホタルの生息地を何回か往復してくれます。

俵山温泉の近くに七重川という川が流れていますが、その上流まで送ってくれます。

個人でも行けなくはないですが、周りは真っ暗でやはりバスで行かれることを強く勧めます。

現在川の沿岸では道路工事をしていてホタルが飛ぶのか少し不安だったのですが、乱舞してくれました。

満天の星を見ているかのようで人生初めての経験ですごかったのですが、写真が下手で撮れませんでした・・・。

来季しっかり準備してお見せできたらと思います。

ホタルの季節以外にも夜の俵山温泉はとても風情があるので、ぜひ宿泊してゆっくりと散策してほしいと思います。

白猿の湯は夜10時まで開いていますので、遅くまで温泉を楽しめます。

イチョウの巨木が2本並ぶ俵山の古刹「能満寺」

さて俵山温泉を後にして、少し離れた能満寺に行くことにしました。

能満寺は弘法大師が立ち寄ったといわれる真言宗の由緒ある古刹ですが、このお寺が特別なのは境内に鬼の角のように生えている二本のイチョウの大木です。

この大木、のどかな田園の中にいきなり現れるので遠目から見てもその大きさに一瞬ぎょっとするくらいです。

そのため結構インスタなどでも写真があげられていて、写真撮影の良いスポットになっています。

本堂はピンク色に塗られていて、なんだかかわいらしいお寺です。

また今回は見ることができませんでしたが、本堂の天井画は雪舟作といわれており一見の価値があります。

ただ境内に車を止めるのは難しそうなので、手前の道路に邪魔にならない形で止めて少し歩いていくのがお勧めです。

俵山温泉は宿泊するのもよし、外湯を利用して日帰りを楽しんでもよしの情緒あふれる温泉街です。

ほたるの季節以外にも長門俵山には楽しめるポイントがいくつかあります。

近くには近代的なスポーツトレーニング場もあり、プロチームが合宿などでも使える仕様になっています。

俵山スパスタジアム(俵山多目的交流広場)

今年の9月にラグビーWCが日本で開催されますが、長門はカナダ代表チームのキャンプ地に選ばれています。

俵山のバス停

なのでおそらくこのトレーニング施設も代表チームが利用するのではと思います。

宿泊は非公表ですがおそらく規模を考えると長門湯本ではないでしょうか。

そうなるとラグビーファンがカナダ代表チームを間近で見られるチャンスは俵山温泉に宿泊するのが・・・。

適当なことは言えませんが、ラグビーファンにはぜひ長門の情報をトレースしてほしいと思います。

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